【 概 要 】
民法上、夫婦の関係にある両人に離婚が成立した場合には、その一方の者は、相手方に対して婚姻中に築き上げてきた財産についての分与を請求することができます。この財産分与には、夫婦の協力で得てきた財産を離婚成立時に清算し分配するという意味が含まれており、離婚した後の生活費や離婚に至る原因をつくった側の慰謝料、損害賠償金等の意味も含まれていると考えられております。
以下に、ごくごく一般的な事例として、サラリーマンの夫と専業主婦の妻といった夫婦を前提に、離婚に伴う財産分与について掲記致しますが、あくまでもこれらの前提の上での事例であり、個々の判断についてはより複雑なものとなることをご理解の上、ご参考として頂けると幸いです。
【 妻の課税関係 】
離婚に伴う財産分与は、民法上、財産分与請求権に基づいて当該財産の給付を受けるもので贈与には該当せず、(原則として・・・)当然に贈与税が課されることはありません。
ここで、原則として・・・と述べたのは、仮に夫と共謀して財産の隠ぺいのために偽装離婚した場合などは、事実認定の実質主義等の観点から、相続税法において当該財産分与という行為は否認され、贈与税が課されることとなります。また、財産分与の価額が、婚姻中の夫婦間の協力等の諸事情を勘案しても過大であると認められる場合には、当該過大であると判断されt部分については、贈与税が課されることとなります。
【 夫の課税関係 】
夫の立場で離婚後のことをいろいろと考えると、こちらはもう悲惨の一言に尽きるでしょう。
離婚に伴う財産分与による財産の移転は、夫からすると財産分与としなければならないという義務の消滅、つまり経済的利益を対価とする譲渡であると扱われます。税務上はあくまでも譲渡であって、贈与ではないのです。この場合の経済的利益の対価の価額とは、財産分与義務の価額であり、両当事者間で合意した金額ということになります。
仮に、多少の金銭とマイホームという居住用財産を妻に財産分与した場合、夫は自らの住まいを失うのみならず、財産の譲渡ということで課税されるという最悪のケースも考えられます。その際、譲渡益が生じている場合には、居住用財産の譲渡の特例を適用し、最高で3,000万円までの特別控除額を用いることが可能ですが、この特例の適用は親族等に対する譲渡には適用はできないので、細心の注意を払って、戸籍の除籍後に譲渡をしなければ、本当に悲惨きわまりない結末となってしまうのです。